導入事例
スタートアップでImageFluxを利用 プラットフォーム構築の鍵はスピード感
ARAV株式会社は、ImageFlux Live Streaming(以下ImageFlux)を利用して、建設機械の遠隔制御サービスを短期間で構築しました。ImageFluxは、シンプルなAPIを呼び出すだけで様々なデバイス向けに高品質なライブ配信環境を簡単に構築できるWebサービスです。WebRTCとHLS の2つの通信形式に対応しています。 ARAVがImageFluxを採用した理由は、1対多の通信が可能、自社サーバにインストールする必要がない、柔軟な利用プラン、の3つでした。
- 業務上1対多の通信が必要
- 自社でサーバ構築は避けたかった
- 開始当初はコストをなるべく抑えたい
- 1対多の通信が可能
- 短期間で利用を開始できた
- 利用コストも低価格に抑えられた
危険な現場を可能な限り無人化
ARAV株式会社は、2020年4月に設立されたスタートアップ企業です。代表取締役の白久レイエス樹氏は、シリコンバレーで自動運転のスタートアップを法人化、事業開発をしていました。しかし自動運転は事業化するまでの道のりが長いと判断、建設業に従事する知人の誘いを受けて、建設業界をターゲットとしたスタートアップ企業を新たに設立しました。
建設業界は市場規模が大きいにもかかわらず、1990年代から生産性が横ばいで収益性に課題があります。また建設現場は危険が多く、年間300名以上の方が亡くなっています。そのため若い現場作業者が増えず、年々高齢者の割合が増えています。人手不足も深刻です。
「建設機械を操縦する人をゼロにできれば、亡くなる方や怪我をする方を大幅に減らすことができます。最終的には機械自体が自律的に作業することを目指しています」と白久氏はビジョンを語ります。
このビジョンに基づいて白久氏が2020年4月に設立したのが、建設機械を遠隔操作するためのクラウドサービスを提供するARAV株式会社です。顧客ターゲットは、ゼネコンに代表される建設業界、建機レンタル会社、建機メーカーなどです。大企業との協業によるオープンイノベーションにも取り組んでいます。社員はロボットエンジニアばかりですが、得意分野は機械、回路、ソフトウェアと様々です。白久氏を除く全員がリモートワークで働いています。
建設機械 遠隔操作のプラットフォームとしてImageFluxを採用
建設機械を遠隔操作するためには、現場で作動している建設機械の映像を遠隔地にいるオペレータに届ける機能が必要になります。その機能のためのプラットフォームとしてARAVが採用したのが、ImageFluxです。
遠隔地にいるオペレータは、ARAVが提供するクラウドサービスにログインして遠隔操作を行います。現場にはカメラを接続したエッジPCがあり、その中にはWebRTC Native Client Momo※(以下Momo)がインストールされています。Momoは、建設機械の映像をWebRTCという映像や音声などを高速に通信するための規格でImageFluxに送付します。ImageFluxは同じく、WebRTCで遠隔地にいるオペレータの操作PC上のWebブラウザに映像を配信します。
※株式会社時雨堂が開発した、ブラウザのない機器からでも WebRTC で映像や音声を配信できるソフトウェア。RTCは“Real Time Communication”の略
3つの課題を解決するためにImageFluxを採用
WebRTCは元々1対1の通信を実現する規格です。しかし建設作業では複数の人が1台の機械を監視したいといった1対多の通信が必要になります。WebRTCで1対多の通信を実現するためには、通信を振り分けるためのサーバが必要になります。この用途で使われるサーバをSFU(Selective Forwarding Unit)と言います。
SFUを実現するソリューションとして有名なものが、Momoを開発した時雨堂が提供しているSoraです。Soraはライセンス販売のソフトウェアであり、自社でサーバを構築してインストールする必要があります。「スタートアップはスピード感が命であり、サーバ構築してインストールするための時間が惜しかった。また私たちはネットワークの専門家ではないので、本当に正しく導入できるのか、障害時に対応できるのかなどの不安もありました」と白久氏は当時の心境を振り返ります。
また、自前で配信システムをすべて構築しようとすると、サーバ・回線などを想定されるボリューム感にあわせて初期構築しなければならず、サービス開始段階でも相応のコストがかかります。
白久氏が立ち上げようとしていたARAVの課題をまとめると、①WebRTCを使って1対多の通信をしたい、②自社で全ての配信環境を構築する負担を回避したい、③配信ボリュームに応じたサービスとして利用したい、の3つとなります。これらを解決するサービスがないかと探していたところ、TwitterでInter BEE 2019にImageFluxが出展されていることを知りました。「ImageFluxを見るためだけにInter BEEに行きました。ブースの担当者と話をして、3つの課題が全て解決されることを確認し、配信数や通信量に応じた必要最低限の構成を提案してくれたので採用を決めました」(白久氏)。結果として、利用コストは、自社で一からシステムを構築するより大幅に削減することができました。
ライブ動画配信の環境導入は極めて簡単だった
導入は数日で完了しました。Soraをインストールする場合、テスト等も含めて1カ月はかかるだろうと白久氏は予想していたので、大幅な期間の節約となりました。
ライブ動画配信環境の導入といっても、サービスとして提供されているので、用意されているAPIを利用して通信用のルームを作ることぐらいでした。とはいえマニュアル通りにAPIを発行したにもかかわらずエラーが発生しました。ですが、「さくらインターネットのサポートにメールで質問したところ、翌日には、このために新たに作ってくれた補足説明資料つきの回答をもらい、問題はすぐに解決しました」(白久氏)。
ImageFluxの性能に関しては、「だいたい0.2秒から0.3秒の遅延で収まっているので、スピードの遅い建設機械では十分な性能です」と白久氏は評価しています。法的な規制に関しては、今後遠隔操作が普及してくると新たな規制が生まれる可能性はあるが、現時点ではまったく問題ないとのことです。
海外とリモート接続し外国人オペレータにも使ってもらいたい
ImageFluxは、多人数に向けてライブ配信を行うのに適したHLS(HTTP Live Streaming)もサポートしています。
将来は海外にも事業を広げ、外国人オペレータに日本の現場の建設機械を操作してもらうことで、日本の建設現場の人手不足解消に貢献したいと白久氏は抱負を語ります。
ITサービスを利用して事業を拡大していく上で重要なことは、運用やサポート面での安心感です。「サーバが停止したときにはその連絡と復旧の連絡のどちらも即座にメールで送られてきました。サービス停止を問題視する人もいるかもしれませんが、私は逆に安心しました。自社サーバで死活監視をずっとしているのは、少なくとも小規模のスタートアップ企業では負担になるからです」と白久氏は語ります。そして、こうした安心感をさくらインターネットに今後も届け続けてほしいと要望しています。